ムズムズ脚症候群とは?
夜、ベッドに入ると脚がムズムズして眠れない…そんな経験はありませんか?ムズムズ脚症候群(レストレスレッグス症候群ともいいます)は、じっとしているときに脚の内部に何とも言えない不快なムズムズ感が生じ、脚を動かさずにはいられなくなる病気です 。この不快な感覚は人によって表現がさまざまで、「虫が這うような感じ」「ほてるような熱さ」「チクチク・ピリピリする」などと表現されます 。症状が起こるときには脚を叩いたり擦ったりして紛らわそうとしますが、ひどい場合はじっとしていられず歩き回らずにはいられないほど強いむずむず感に襲われることもあります 。主に下肢に症状が出ますが、まれに腕や背中など脚以外の部位に現れるケースもあります 。
ムズムズ脚症候群の症状は夕方から夜間にかけて悪化しやすい特徴があり、就寝時に症状が強まって睡眠を妨げます 。いざ眠ろうとすると脚をバタバタ動かしたり、無意識に脚がピクッと動いて目が覚めてしまうこともあります 。そのため入眠障害や途中で何度も目が覚めてしまう中途覚醒につながり、慢性的な睡眠不足に陥りがちです 。結果として日中に強い眠気や倦怠感、集中力の低下を招き、生活の質(QOL)を著しく下げてしまうことも少なくありません 。日本でも推定200~500万人(人口の約2~5%)がこの症状に悩まされており、そのうち約200万人は日常生活に支障が出るレベルとも報告されています 。決して珍しい病気ではありませんが、一般の認知度が低く「単なる不眠症」や「年のせい」と見過ごされてしまうこともあります 。
どんな人がなりやすいの?
ムズムズ脚症候群は中高年以降に発症しやすく、女性に多い傾向があります 。特に女性は妊娠中に症状が出ることがあり、妊娠後期に初めて発症するケースも見られます(この場合、出産後に症状が消失することが多い) 。また家族に同じような症状の人がいる場合は発症リスクが高く、遺伝的要因が関与しているとも考えられます 。そのほか、以下のような体質・疾患を持つ方はムズムズ脚症候群を起こしやすいとされています。
• 鉄分不足・貧血:体内の鉄分が欠乏している(フェリチン値が低い)と発症リスクが高まります 。特に鉄欠乏性貧血の人は注意が必要です。
• 慢性疾患のある人:慢性腎不全(透析中の方)や糖尿病、パーキンソン病など、何らかの慢性的な病気を抱えている場合に二次的に起こることがあり
ます 。また関節リウマチや末梢神経障害(手足のしびれを伴う病気)でも合併しやすいと報告されています 。
• 生活習慣の要因:カフェインの過剰摂取や喫煙習慣がある人は症状が現れやすいとの指摘があります 。実際に禁煙したら症状が軽快したという報告や、コーヒーを断ったら治まり再開したら再発した例も報告されています 。過度の飲酒も睡眠の質を低下させ症状悪化につながるため注意が必要です。
こうした要因に心当たりがある場合、ムズムズ脚症候群を発症する可能性が高まります。長年「眠れない」「脚がむずがゆい」と悩んでいる場合は、一度専門医に相談してみることをおすすめします。
原因とメカニズム
ムズムズ脚症候群の明確な原因はまだ解明されていませんが、有力な説として脳内のドーパミン機能低下と鉄分不足の関与が挙げられています 。脳内の神経伝達物質であるドーパミンは運動や快感に関わる物質ですが、このドーパミンの働きが低下すると、脚の異常な感覚や不随意の運動を引き起こしやすくなると考えられます 。実際、ムズムズ脚症候群の治療にはパーキンソン病治療薬(ドーパミン作動薬)がごく少量で有効であることが知られており、このこともドーパミン神経の機能異常を裏付けています 。
また脳内の鉄分不足(鉄欠乏)も重要な原因とされています 。鉄はドーパミンをはじめ神経伝達物質の産生に必要な要素であり、鉄分が不足するとドーパミン系の働きに支障をきたす可能性があります。ムズムズ脚症候群の患者では血中フェリチン値(体内の鉄貯蔵量)が低いことが多く、鉄剤の投与や鉄分補給によって症状が改善する例があります 。実際に血液検査で鉄欠乏が認められた場合は、食事改善やサプリメント、医療機関での鉄剤投与によって鉄分を補充する
ことが推奨されます 。
さらに、ストレスや生活習慣もムズムズ脚症候群の発症・悪化に影響します。過度のストレスは自律神経のバランスを乱し、症状を増悪させる一因となりえます。また上でも触れたように、カフェインの過剰摂取や喫煙習慣、アルコールの多飲は症状を悪化させることが報告されています 。特にカフェインは寝つきを悪くするだけでなく、ドーパミン生成に必要な鉄の吸収も妨げるため注意が必要です 。日頃から規則正しい生活を送り、十分な睡眠とリラック
スする時間を確保することが予防・改善につながります。
まとめると、ムズムズ脚症候群は「ドーパミン系の機能異常」+「鉄分不足」+「ストレスや不摂生」といった複数の要因が重なって起こると考えられ
ます。一人ひとり原因の割合は異なるため、自分の場合は何が誘因になっていそうかを把握し、それぞれに対処していくことが大切です。