鍼灸治療の効果
ムズムズ脚症候群の改善方法として、薬による治療以外に鍼灸(はりきゅう)治療も注目されています。東洋医学である鍼灸は、ツボ(経穴)を刺激して体のバランスを整える療法です。では、ムズムズ脚症候群に対して鍼灸治療にはどのような効果が期待できるのでしょうか?
ツボ刺激による症状緩和
ムズムズ脚症候群の鍼灸では、脚のむずむず感を和らげるために脚部のツボを中心に刺激を行います。代表的なツボには、足三里(あしさんり)、三陰交(さんいんこう)、太谿(たいけい)などがあります 。足三里は膝の外側下方に位置し、「ツボの王様」とも呼ばれる万能のツボで、消化器系の調子を整え全身の気血の巡りを良くする作用があります。三陰交は内くるぶしから指4本分上にあり、血行を促進しホルモンバランスを調整する効果が期待できるツボです 。太谿は内くるぶしとアキレ
ス腱の間のくぼみにある腎経の要穴で、下肢の冷えや痛みを和らげる作用があるとされています 。これらのツボに鍼やお灸で刺激を与えることで、脚の血行を改善し、筋肉のこわばりをほぐして神経の興奮を鎮め、むずむずする異常感覚を抑える効果が期待できます。
実際に、ある症例報告ではふくらはぎへの鍼灸施術によってムズムズ脚の不快な異常感覚と「冷え」が同時に改善した例が報告されています 。ムズムズ脚症候群と「冷え」には共通してドーパミン系や自律神経系の乱れが関与しており、鍼灸治療がそれらに作用して症状の改善を促した可能性が示唆されています 。このように鍼灸は局所の血流を良くするだけでなく、自律神経のバランスを整える作用も持っています。交感神経の高ぶりを抑えて副交感神経を優位にすることで、心身をリラックスさせ、夜間のムズムズ感や不眠症状を軽減する効果が期待できます。
鍼灸治療の効果とエビデンス
鍼灸治療は患者さん一人ひとりの体質に合わせたオーダーメイドの施術が可能で、副作用が少ない安全な療法です。ムズムズ脚症候群に対しても、「鍼灸を受けたことで睡眠の
質が向上し日中の症状も改善した」とする研究報告があります 。実際、2007~2022年のデータを分析した2023年の研究では、鍼灸治療を受けたRLS患者で有意な症状改善と睡眠状態の向上が見られ、副作用もごく軽度(めまいや筋肉痛がわずかに出た程度)だったと報告されています 。さらに2021年のレビュー研究でも「鍼灸がRLSに有効である可能性がある」と結論付けられています 。
ただし、現時点ではムズムズ脚症候群への鍼灸効果について大規模な臨床試験の数が十分ではなく、医学的エビデンスは確立途上であるとも言われます 。コクランレビューでも「有効性と安全性を判断するにはデータが不足している」と指摘されており、さらなる研究が望まれています 。とはいえ、鍼灸は体への負担が少なく、他の治療との併用もしやすいことから、「試してみる価値のある治療法」として注目されています 。実際に日本でも鍼灸院でムズムズ脚症候群の症状改善に取り組むケースが増えており、「薬だけに頼りたくない」「妊娠中で薬を使えないので鍼灸でケアしたい」という患者さんから支持を集めています。
自宅でできるセルフケア
ムズムズ脚症候群の症状を和らげるためには、日頃のセルフケアも重要です。鍼灸院に通う時間が取れない場合や、日常生活の中で予防したい場合、自宅でできる対策を取り入れてみましょう。
ツボ押し・マッサージ
症状緩和にはツボ押し(指圧)が効果的です 。ツボを刺激することで自律神経の乱れを整え、血行を改善し、ストレスを緩和する効果が期待できます 。とくに症状が出ているときにふくらはぎや足首をマッサージすると楽になる方は、血流を促進するツボや不眠に効くツボを意識して押してみましょう 。
例えば三陰交(さんいんこう)は内くるぶしの骨から指4本分上にあるツボで、押すと全身の血の巡りを良くし栄養を行き渡らせる効果があります (※ただし三陰交は陣痛
を促すツボでもあるため妊娠中は避けてください )。手の甲にある合谷(ごうこく)というツボは、筋肉の緊張をゆるめ痛みを和らげる効果が期待できます 。また足の裏の中央(かかとの少し上)にある失眠(しつみん)は、その名の通り不眠解消に使われるツボで、血液や体内水分の循環を促し自律神経を整える作用があります 。これらのツボを気持ちいいと感じる強さでゆっくり押してみましょう。ツボ押しのポイントは、息を吐きながら押し、吸いながら力を緩めることです 。左右両方の足(または手)に同様に行い、1カ所あたり5~10秒押圧⇒ゆるめる動作を数回繰り返すと効果的です 。就寝前や症状が辛いときにツボ押しや脚のマッサージを取り入れると、脚のムズムズが和らぎ眠りにつきやすくなるでしょう。